『月が昇れば』の舞台

The Place

『月が昇れば』の舞台


photo©️ELICAMIWA

アイルランドは長い間イギリスの支配下から解放されたいと願ってきました。このお芝居『月が昇れば The Rising of The Moon』は、それが背景にあります。

イギリスとの地理関係を見てみましょう。

アイルランド島はブリテン島から、アイルランド海を隔てて西側にあります。ブリテン島の腕の中に抱っこされているように見えますね。アイルランドでは英語が使われていますし、イギリスと仲が良いと私たちは考えてしまいがちですが、アイルランド島は常にイギリス支配から逃れたいという独立意識を強く持ってきました。

シェイクスピアも戯曲にしたジョン王が、先ず11世紀に、我こそはアイルランド公爵であると肩書を作り上げ、リムリックに城を建て、アイルランドをイギリス領とします。

彼のあまりの横暴で乱暴な統治の方法は、歴史家たちをして「すべての国王の中で最悪(19世紀の歴史家ウィリアム・スタブス)」と言わしめる酷さで、ここからアイルランドの強烈な反発心が生まれます。

シェイクスピアの歴史物シリーズでも度々、敵か味方かを行き来するアイルランドですが、ついに16世紀、ヘンリー八世がアイルランド王という称号を使い始めたことで、アイルランドは完全にイングランド王に支配されることになりました。ここでもまた大きな反対戦争が起き、ヘンリー八世の娘のエリザベス一世、その後を継いだジェームス一世の時代までは酷い戦乱が続きます。

↑ 左からヘンリー八世・エリザベス一世・ジェームズ一世。all from wilimedia commons

『月が昇れば』に出てくる歌手が、グラニュエイルという女性を讃える歌を唄います。このグラニュエイルは、エリザベス一世の時代に、女性ながら反対運動を率いた英雄です。その歌がずっと歌い継がれていることを思うと、その独立精神の強さがわかりますね。

作品に登場する地名の紹介はまた別の機会に!

エリザベス一世の時代にイングランドの国力が驚異的に強くなったことも影響しているでしょう。力の弱い国は平和裡に物事の解決を図ろうとしますが、力の強い国は「逆らうものは打つべし」で進むもの。言語も古来から単一言語として存在していたアイルランド語の使用が制限され、英語の使用が強制されていきます。なんとなくロシアとウクライナの歴史関係が想起されますね。

レディ・グレゴリーが『月が昇れば』をダブリンのアベイ劇場で上演したのは1907年。アイルランドがイギリスと休戦協定をむすび、一部独立できたのは1921年ですから、まだまだイギリスの法律がアイルランド人を厳しく支配していました。物語の主人公は、アイルランド人の歌手と、それを阻止するイングランドの手先である警察官です。ダブリンでの上演はかなり危険だったに違いありません。それがこの物語の背景です。舞台は、大西洋に面した、小さな町の波止場で、とくに名前の記載がありません。けれど、レディ・グレゴリーがよく知っているこの辺りだと思います。

drawn©️ELICAMIWA

↑ ひとつ上の地図で、リムリックの北にゴールウェイという大きな街があります。その拡大図。オレンジのペンでなぞったあたりの海岸と思われます。モヘーの断崖は世界遺産になっていますし、アランセーターで有名なアラン諸島も訪ねてきました。そのあたりの報告はまた別記事でざくざくご紹介します。お楽しみに!

劇の舞台は波止場。ゴールウェイ近くニュー・キー New Quay の風景, photo©️ELICAMIWA

この記事はいかがでしたか?池辺晋一郎氏によるこころに残る歌を軸にして、ふたりはどんなドラマを繰り広げてくれるでしょう。ぜひ劇場でご覧ください。主人公を演じる俳優たちは初めての共演ですが、とてもいい感じで稽古が進んでいます。

written by 三輪えり花(英語圏部会 副部会長&運営委員長。演出家・俳優・翻訳家)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Go to top